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ミツバチと共に90年――

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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

母とハニーレモンと私

ハチミツ大ちゃん

 

 はちみつはかなり高価なものだと思う。私は自分自身の財布ではちみつを買ったことは無いのだ。そんな私とはちみつとの出会いはもう三十年近く前にさかのぼる。小学生の頃、病弱だった私に母親が良く飲ませたのがハニーレモンだった。当時、ハニーがはちみつのことだなんて知る由もなかった。風邪をひいて学校を休んでいる私の枕元に黄色い透明な液体が入った紅茶茶碗がやってくる。母は「熱いからね、ふうふうして飲むのよ。」と言いながら自らふうふうするのであった。その味は何とも言えないほどに甘酸っぱく、のど越しのよい飲み物であった。なんだかすぐにでも額の熱が冷めていくようないくような気がした。茶碗の底には黄金色のなにかがまだ付着していた。そしてそれをスプーンですくって母は私に舐めさせるのだった。
 私が高校生の時にはクラブ活動から帰ると冷たいハニーレモンが卓上にあった。たまたまついてきた友人にもふるまわれた時、「これはうめえな。最高だよ。」と言われた。私は母の入れてくれるハニーレモンが自慢だったから少し鼻が高くなった。高校時代、クラブ活動に熱中し過ぎた私は浪人する羽目になった。受験生となると毎晩のように母はハニーレモンを入れてくれた。健康のためにとお砂糖は一切入っていない、はちみつだけの甘さなのだ。私は志望校に合格して何とか母を喜ばせたかった。しかし、私は第二志望にも落ちて失意の中、第三志望の大学に行くことになった。弟もいたからこれ以上の浪人は許されなかったのだ。
 あれから何年たったのだろう。私は田舎に両親を残して東京で就職した。たまの正月には帰っていたが仕事などにかまけて帰省をさぼることもあった。ある晩だった。私の携帯がブンブンと振動した。こんな夜中に誰だよ。不快気にでるとそれは弟からだった。「あんちゃん、大変だ。母さんが危ない。」え?私はドラマの中で見たことのある電報を思い出した。「ハハキトクスグカエレ」私は翌朝始発の新幹線に飛び乗った。飛行機で帰りたかったがあまりに高すぎて買えなかったのだ。ぎりぎり死に目に会えたものの、母はあっけなく旅立ってしまった。
  私はいま、ハニーレモンを飲みたいとは思わない。母を思い出して涙がこぼれてしまうからだ。私にもしも子供が出来たらハニーレモンを嫁さんに作ってもらおう。そしてそれがおふくろの味になればいいなと思うのだ。

 

(完)

 

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